幕末から明治にかけて名を馳せた絵師・河鍋暁斎(の絵)が好きで、関西のどこかで企画展が開催されないかと待っていたのだが、機会は待つほどに遠のいていくらしく、噂も聞こえてこない。もうそれなら、と埼玉県蕨(わらび)市にある、河鍋暁斎記念美術館を訪ねていった。暁斎のみならず、娘・暁翠の作品まで見られるのだから、遠くても訪ね甲斐があるというものだ。くらげも喜ぶに違いない。
⇒感性という名のくらげ
といっても、本物見たさに神戸から埼玉へ飛んじゃいました、というほどフットワークは軽くなくて、東京行きに合わせて予定をねじ込んだのが本当のところだ。
件の美術館は、暁斎の曾孫・河鍋楠美氏によって1977年に開館した施設で、住宅地の中にひっそりとある。
駅からは遠く、タクシーかバスが必須。朝からけっこうな雨が降り続ける日で、思いのほか移動に時間が取られ、ほぼ一日仕事になってしまったのだけれど、それでも来てよかった、と心の底から思えた。
暁斎の直筆画は、命ある生きもののようだった。今にも動いて、こちらに迫ってきそうな勢いだ。印刷された絵の、何万倍もの迫力に圧倒された。そもそも、絵(アート・芸術)ってそういうものだと思うけれど、好き!の目で見るとなおさらなのだ。
ぶっ飛んでいる作品ばかりでは当然ないが、暁斎のまわりには「画鬼」、「狂画」、とエキセントリックな言葉が躍り、酔狂な部分だけを切り取られがち。ヌメっとした心情、どろりとした感情など、人間が奥深くに隠し持っている生ぐささを遠慮なく明るみに晒しちゃうからか、それとも、やすやすと絵に写し取れるその腕が妬ましいのか。なんかちょっと言ってやりたくなるキャラだったのかもしれないですね、知らんけど。
生ぐささのない、繊細で細やかな暁翠の作品を、暁斎と比べてじっくり見られるのもよかった。
館内の撮影は一切禁止なのと、いっこうに止まない雨にいろいろ(動作とか、時間とか)奪われていたのとで、外観すら写真を撮っていなかったことに後から気づき、残念だった。せめてもの記録として、併設ショップで購入したポストカード、『七福神宝船之図』と『閻魔大王浄玻璃鏡図』の写真を上げておきたい。『閻魔大王浄玻璃鏡図』
ちなみに、『骸骨図』という、これも暁斎の作品が前後にプリントされたTシャツも購入した。すごく気に入って、この夏、わりと高い頻度で着ている。ぎょっとされたことも、逆に褒められたこともないので、普通に着こなしている(?)と思う。
どんな絵か、なんとなく想像はつくと思うが、「暁斎 骸骨図」で検索すると出てくるので、見たい方はぜひ調べてみてほしい。